部署は違うが、気が置けない会社の若い仲間2人と久しぶりに飲んだ。
その時一人から、落ち込んだ表情で
「ボーナスの評価が大幅に下げられました。上司は全く私の努力を理解してくれないんです。こんなショックは初めてです。」と話してくれた。
慰めようと、もう少し聞いた。
「私の部はあまり儲かっていないので、前期から営業の人間を減らされました。上司は ❝忙しい時はお互い助け合って行けば何とかなる❞ と当然のように言います。」
≪管理する側からすればそう言うだろうな、それで≫
「11月に大型の商談が決まった後、事務回りが自分だけではこなせ無くなった来たので、お客様に迷惑も掛けられないし、若手の営業に手伝って貰いました。」
≪なるほど、それで≫
「久々のビックな受注だったので、当然ボーナスも高い評価が貰えると思ったんです。でも、お話しした通り、逆に下げられました。❝お前は若手営業マンのチャンスを奪った❞と言うのです。忙しい時には協力しろと言ったのに、です。」
≪そうか、それは大変だったな、お疲れさ、まあまあ~取りあえず飲もう≫
気の利いた助言も出来ず飲み会を終えた。昨年末のことだった。
先週、ある面白い話を聞いた。
「橅(ブナ)の木」のことだ。
ブナの木は
- 成長が遅く、一般的な建材として利用する大きさになるまで1世紀かかる。
- しかも、腐りやすく曲がり大きくなるため建材としては使えない。
- 水分も多く含んでいるので薪にも使えない。
だから江戸時代から「木では無い」と見做され、「橅」の漢字を充てられ、価値の低い木と言われていた。
しかし、近年改めて観察・研究したところ
ブナの森は
「緑のダム」であることが分かった。何故か
- 大雨が降ると広い葉が激しい雨のクッションとなり
- 幹から落葉に吸収された雨は根に貯まり、根は大型の貯水タンクになるからだ。
また、ブナの森は
「森の豊かさ」の象徴でもある。というのも
- 大量の落葉は堆積して腐葉土になり、土を肥やし
- ブナの実は、熊は猪などの主食になっているのだ。
当時はそんな事は理解できず、役に立たない木として大量に伐採され、杉やヒノキなど建築用材として利用できる苗木が植えられ、いつの間にか「ブナ退治」と言われた。
しかし、山崩れや鳥獣被害の多発している現状を見たり、花粉症患者が年々増えていることを考えると、今はそのしっぺ返しを受けている。
この話を聞いたとき、一番先に思い浮かんだのは五木寛之の著書「ただ生きていく、それだけで素晴らしい」の中で使っている言葉だった。
「無用の用」
元を辿れば、老子の言葉だ。『一見、役に立っていないと思われることが、実は大きな役割を果たしている。』ということを表している。
まさに「ブナの木」のことである。
思い浮かべていた。
気落ちした若い仕事仲間のこと。
本当の事情は分からないが
大きな仕事を成し遂げた背後には、目には映りにくいが若手営業マンの事務面の手伝いが確かにあった。そこに思いを馳せることが必要だったのではないか。
正解は藪の中
でも、今度彼と飲むのが楽しみになった。