・記事最新更新日 2017/6/10
3月29日、ついに英国のメイ首相はEU(欧州連合)に離脱を通知しました。
昨年6月のEU残留の是非を問う国民投票の結果、僅差でEU離脱が決まった時の衝撃は世界を駆け巡り、株式相場の大暴落や為替相場の極端な波を生じさせ、その後の各国政局にも計り知れないインパクトを与えました。
そして、今回の正式離脱表明により《その衝撃》をいや応なしに再確認することとなりました。
私はこの記事を通じて、《その衝撃の行方》をできるだけ分かりやすく、しかもコンパクトに説明しようと思います。
国際政治の潮流を理解するためのキーワード「自国ファースト主義」
前回(3/16)「イタリア政党『五つ星運動』は輝ける星になれるのでしょうか?!」の記事を書かせて頂いた時、国際政治の潮流を理解する上で、次の考え方をその核に置きました。
その考え方の中心を占めるキーワードが「自国ファースト主義」です。
このキーワードは、これまで書いてきた「5つの記事」の底流にある政治手法であり、政治思想です。
より具体的に表現しますと「自国の利益最優先とし、保護主義に走り、他国との協調は後回しにする」考え方です。
<参考>
「自国ファースト主義」は、実は英国から始まりました。
これも前回記事のおさらいです。
- 昨年6月の英国EU離脱決定
- 同年11月にトランンプ氏が大統領選に勝利
- 同年12月のオーストリアでは大統領選挙で極右「自由党」が大躍進
- フランスでは極右政党「国民戦線」が支持率第1位
- ドイツでは、絶対的人気のあったメルケル首相は、野党第1位の新党首シュルツ氏の登場により支持率は逆転
- 3月15日のオランダ総選挙では、反EU・移民排斥を掲げる極右政党「自由党(PVV)」が、第2党に躍進
以上の通り、自国ファースト主義を標榜する英国のEU離脱決定は欧米主要国の政治の流れの一変させました。
英国のEU離脱の真相とは?
<建前の理由>
「EUに加盟し続ける限り、政策運営はベルギー・ブリュッセルに拠点を置く欧州委員会の影響を受ける。したがって、英国の決定権を取り戻し、より公平でより強く、真にグローバルな英国をつくる」と言うのが正式な離脱理由です。
<本音の理由>
EU加盟国は難民受け入れ拒否はできませんし、移民についても原則拒否できないルールになっています。したがいまして
では何故、移民・難民受け入れを制限しようとするのでしょうか?
理由は二つあります。
1.社会福祉に関わる税負担の増加と失業リスク問題
社会福祉の税負担について
- 福祉手当が与えられ
- 無料で医療施設を利用することができ
- 確実に住居が与えられます。
当然、難民の社会福祉財源は税金ですから、英国民の税負担が重くなります。
雇用について
移民・難民は当然仕事をしますので、英国民との仕事の奪い合いになります。
2.治安の悪化
難民の流入はフランス等のテロ事件に繋がり、治安はますます悪化しています。
<ここまでの総括>
以上2つの理由から移民・難民に対する意識が大きく変わる一方、EU他国と比べ経済もすこぶる順調で自信を取り戻した英国では、英国民を優先する『自国ファースト主義』が一気に高まり、EU離脱決定に繋がりました。
EU離脱の衝撃の行方
英国は「議会制民主主義の歴史と伝統」をついに捨てて、目先の大衆の利益を優先する『ポピュリスト政治』を選択しました。
この衝撃の行方はどうなるのでしょうか?
その現状は?
『EU離脱条件』について
前例のない離脱交渉だけに、2年間の交渉期限内に『離脱条件』を決めることは厳しい状況が予想されます。
EUは英国を特別扱いせず、厳しい姿勢で臨むようですし、英国がかつて拠出を約束したEU分担金最大600億ユーロ(約7.2兆円)の支払いを要求し、早くも対立が激化しています。
EU離脱後の『将来に関する協定』について
英国は『将来に関する協定』の中に、EUとの包括的な自由貿易協定(FTA)や、関税同盟に代わる『関税協定』を盛り込み、加盟国として受けて来た恩恵をなるべく温存したい考えです。
それに対し、EU側は加盟国(27国)の動揺を防ぐため、「いいとこどりは許さない」と警告し、ユンケル欧州委員長は「2年間で全てを片付けられるとは思わない」と冷ややかです。
『将来に関する協定』が締結できないでEU離脱を迎えると、英国に進出している企業への影響は大きくなります。世界貿易機関(WTO)の共通ルールが適用されるようになり、例えば英国からEUへの自動車輸出には10%の関税がかかり、英国産業を「離脱ショック」が襲うことになります。
要するに、企業や経済を混乱させる『崖っぷち』の状況が現実味を増す恐れがあります。
その行方は?
英国の前途は極めて多難です。
- 新たな貿易協定を締結する必要がある他、経済・司法・教育等多くの分野においても協定を結び直す必要があり、実際には気の遠くなるような交渉・作業時間を浪費することになります。協定締結までに2年間しかなく実質的には不可能です。
- 英国に拠点を置いている企業の多くが拠点を大陸に移すとの予測から、すでにオフィスビルの不動産市況が悪化し始めています。
- ポンド安が輸入物価の押し上げており、英国民の実質賃金を引き下げ、消費マインドの低下を招く恐れが大きくなっています。
- 最近まで中国から積極的な投資を受け入れていましたが、メイ政権では方針の見直しを開始しているため、中国からの投資も減少することが予想されます。
- EUに残留を希望する”スコットランド”では、英国からの独立機運が再び高まっているほか、”北アイルランド”でもアイルランドへの併合への動きが活発化しているため、「連合国の解体」危機も高まっています。
EU側としては、交渉が長引くほど有利な展開につなげることが出来ます。
- 合意への緊急性は無く、英国が離脱の高い代償を支払うことを世界に周知させ、EUの存在価値を高めることが出来ます。したがって、今後の交渉も一切妥協を許さない姿勢を貫くと思います。
- ドイツ・フランスなどの大国では、英国に拠点を置く企業が自国に移ってくると予測しています。
最後に
英国の『自国ファースト主義』の機運はおそらく、今年で転機を迎えるのではないでしょうか。次々とEU離脱のデメリットがクローズアップされるに連れて、英国民は理性を取り戻し、国民投票の再実施を行い、瀬戸際で立ち止まるような気がします。
<議会制民主主義の歴史と伝統>のある誇り高き英国、その目を覚まして欲しいと切に願うばかりです。
6月8日、英国議会・解散総選挙を表明! メイ首相はEU離脱のため大きな賭けに出ました。(2017/4/18)
それは突然の声明発表でした。
総選挙の結果は、欧州連合(EU)からの離脱交渉を左右します。
何故、このような決意を表明したのでしょうか?
EU離脱について国民に信を問うて政権基盤を強化し、対EUの交渉力を高める為です。
その背景にあるものは何でしょうか?
与党・保守党の議席数の問題です。保守党は現在、下院650議席のうち330議席を握っていますが、過半数をわずか4議席上回っているだけで、議会を完全には掌握出来ていません。対EU交渉や離脱関連法案の審議・成立が滞るリスクを抱えています。
よって、総選挙で与党が安定的な多数を確保し、議会が一丸となってEU離脱の難局を突破する事を狙いました。
何故、今なのでしょうか?
4月上旬に実施した世論調査で、保守党の支持率は44%にのぼり、労働党に20pt以上の差をつけているからです。現時点で総選挙を実施すれば、与党が圧勝する可能性が高いと判断したからです。
メイ首相の思惑通りに与党・保守党が足場を固めれば、欧州単一市場から離脱し、規制や移民政策で独自の路線を歩む強硬離脱(ハードブレグジット)を推し進めるメイ氏に追い風となります。
逆に選挙で苦戦すれば
ハードブレグジットの反対派が勢いを盛り返し、政府・与党は強硬離脱方針の軌道修正を迫られる可能性もあります。
EUとの離脱交渉の期間は2019年3月までの2年。総選挙までの政治空白や、EU各国や英議会の承認手続きを考えると、実質的に1年半足らずの時間しかありません。交渉の時間切れは、EUとの通商関係などを確定できないままの無秩序な離脱を意味し、経済に大きな混乱を招きます。政権の求心力やEUとの交渉力が落ちるのは避けられません。
メイ氏は勝機を捉え、大きな賭けに出ました。
6月8日に実施される英総選挙(下院、定数650)で、メイ首相率いる保守党が過半数議席を確保できない可能性が出て来ました。(2017/5/31)
タイムズ紙が30日、「調査会社ユーガブ」の報告を引用して報じたところによりますと
大半の世論調査では保守党が議席を増やし、過半数を維持するとの結果が出ているのに対し、ユーガブが選挙区ごとのモデル化を行った調査によると、保守党は選挙前の330議席から20議席を失う可能性があり、一方、労働党は30近く議席を増やす可能性があるということです。
そうなれば、保守党は過半数の326議席に16議席足りない計算となり、他党の協力が必要になります。
保守党は前回2015年の総選挙で他党との差が17議席となり、この差が縮まれば、英国の欧州連合(EU)離脱交渉を進めるメイ政権にとって大きな打撃となります。
議席を減らす2つの根拠
- メイ首相は18日、総選挙に向けた与党・保守党のマニフェスト(政権公約)を発表し、高齢者の一部による医療費負担を増やす案を打ち出しました。反対派からは「認知症税」と揶揄(やゆ)され、これ以来、保守党のリードは急速に縮小しています。
- 一方で労働党は、22人の死者を出したマンチェスターでの自爆攻撃の一因が、保守党の掲げた財政支出の削減の一環として実施した警察官の減少にあると批判。警察官を1万人増員することを公約に掲げました。
これまでの世論調査では、保守党が過半数議席を獲得できない可能性を示唆したものはありませんでした。
タイムズは、今回の新しい調査モデルは前週に収集された投票意思に基づくもので、これによると支持率は保守党が42%、労働党が38%だったと説明しました。
同社のスティーブン・シェークスピア最高経営責任者(CEO)はタイムズに対し、この調査モデルは昨年のEU離脱の是非を問う国民投票を控えた期間にテストし、継続的に「離脱賛成派」のリードを予想していたということです。
この調査結果が信頼に足るものであれば、英国の政治は更に混迷を深めますね。
英総選挙が大注目になって来ました。
調査会社予想通り、下院議員選挙は与党保守党が過半数を割り込みました。(2017/6/10)
議席数の詳細は以下の通り。
どの政党も過半数を握れない「ハングパーラメント(宙づり議会) 」。二大政党制が根付く英国で異例の事態に陥りました。
敗因について
選挙戦で社会保障の高齢者負担増を提案し、保守党圧勝の流れが一変。相次ぐテロも追い打ちをかけたようです。(前回記事参照)
今後の政局について
- 政局の混迷は避けられません。EUからの強硬離脱を掲げる保守党は、親EUのSNPや自民党と相いれず、メイ氏が連携をめざすDUPは連立政権ではなく、閣外協力を念頭に置くと英メディアは報じています。重要法案ごとに合意を取りつける必要があり、わずかな造反で政権が行き詰まる不安定さを抱え続けることになります。
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もっとも、敗北を招いたメイ氏の責任論もくすぶります。今後、組閣や政権運営が難航し、保守党内で批判が高まる可能性は消えません。メイ氏の求心力低下は必至で、テロ対策など重要な政策が滞る恐れがあります。総選挙を再実施する可能性もすでに取り沙汰されているそうです。