カワセミのまなざし

カワセミのまなざし

野鳥とクラシックギターへの強い想い

庶民派『シュルツ首相』は誕生するのか⁈ 【独連邦議会選挙】 ~その行方と結末~

・記事最新更新日 2017/9/30

9月のドイツ連邦議会選挙は全く不透明になって来ました。

中道右派(保守派)『キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)』メルケル首相の独壇場と思われていましたが、ここに来て支持率が下がってきたからです。

 

f:id:Hatabou:20170306153528j:image

 

公共放送ARDが2月24日に発表した調査によりますと、両党の支持率は

となり、遂にSPDが1pt差ながら首位に立ちました。

 

 支持率低下の原因は2つあります。

 

(その1)国民の絶対的信頼を得ていたメルケル首相への政策批判の高まり

f:id:Hatabou:20170306152903j:plain

メルケル首相(62歳)について

メルケル政権は昨年12月で就任12年目を迎えました。メルケル首相はドイツ史上初の女性かつ旧東独出身の首相です。

サクセスストーリー

大学で物理学の博士号を取得し、学者の道を歩んでいましたが、1989年11月にベルリンの壁が崩壊。このとき彼女は「政治家になってドイツ統一を早急に果たし、市場経済を導入したい」と考え、政治家の道を進むようになります。

東西ドイツ統一後にキリスト教民主同盟(CDU)に入党し、当時のコール首相に見込まれ、党幹事長にまで登り詰め、2000年にCDUの党首に就任。2005年の総選挙後、首相になりました。

その後、EU議長国及びG8議長国としての成功や、欧州債務危機(特にギリシャ危機)への手堅い対応、ウクライナ情勢を巡る強いイニシアチブなど、様々な課題を解決に導いてきた政治力は高く評価され、国民の人気も高くなりました。

最大の政治危機の勃発

2015年秋以降急増した中東からの難民に対し、受入れ上限を定めないオープンドア」政策を掲げ、寛容な難民受け入れを表明してから、国内・与党からも大きな批判を浴びるようになりました。

2016年9月の2州での州議会選挙では、難民問題がクローズアップされて新興右派政党「AfD」が伸長し、批判がさらに加速することになりました。

 

(その2)中道左派社会民主党SPD)』の人気が急上昇したことです。

その最大の要因は、今年1月にSPD党首に就いた《シュルツ氏》の存在です。

f:id:Hatabou:20170306152019j:plain

4年間欧州議会議長を全うし、人気の無いガブリエル氏から党首の座を禅譲されたシュルツ党首は、ドイツ国内政治に殆ど関わらず、その「新鮮さ」と過去の’’失策’’を修正しようとする「率直な姿勢」と「庶民的な人柄」が評価されて、人気が急上昇しました。

 

シュルツ氏(61歳)とは一体何者なのでしょうか?

現在では「6ヶ国語を操る欧州各国に人脈をもつ国際派」とのイメージが強いようですが、過去を振り返ると、その印象とは全く違う興味深い歩みがあります。

若い頃はドイツ西部の高校でサッカー選手を目指していましたが、怪我で断念しました。

さらに高校卒業にも失敗し、大学進学を断念したため、一時期アルコール依存性に陥った時期もあったようです。

20歳頃立ち直り、その後5年間はどういう訳か、ヨーロッパ各国の出版社や書店を渡り歩き、書店経営を学びました。

そして、転機が訪れます。

1972年にドイツ社会民主党SPD)に入党すると、メキメキと頭角を現し、1984年にヴュアゼーレン市議会議員に当選し、1987年には州内では当時’’最年少市長’’を務めることになりました。(32歳)

1994年の欧州議会議員選挙で当選し、活動の場を欧州議会に移します。(39歳)

2004年の選挙後は、スペインのエンリケ・バロン・クレスポの後を受けて、院内会派の代表となります。(49歳)

 2012年の欧州議会議長選挙では、各会派の綱引きの結果、ついにシュルツ氏が議長に当選し、2014年にも再選を果たします。(57歳)

そして、今回議長3期目を務めることは無く、冒頭で述べた通り、ついにドイツ首相を目指して、今年1月にSPDの党首に就任しました。(61歳)

 

メルケル首相が物理学の博士号を持っているに対して、シュルツ氏は経歴の通り挫折感が根底にあり、その人間臭さ・親しみやすさが国民を惹きつけているようです

 

 

シュルツ氏の政権方針

詳細な政権公約は5月以降に明らかにするようですが、これまでのSPDの集会での発言等から、公約の大枠が見えてきました。

社会保障 

 雇用不安と高齢者の貧困に的を絞り、所得格差を減らすために以下の政策を示しています。

  • 非正規雇用契約の縮小
  • 年金制度の維持を中心とした社会保障の充実
  • 労働者を解雇から守る制度の導入

 

以上の政策はシュレーダー元首相(SPD:1999-2005)が進めた「社会保障の抜本的な改革」を覆すものです。(失政を認める姿勢)

 

 財政政策面

「数十億ユーロもの財政黒字があるのなら、高所得者向けの減税に使うのでは無く、投資に回すべきだ」との考えから次の政策に力点を置いています。

  • 教育、インフラ、デジタル技術への投資拡大
  • 特に、インフラ面では公共交通の遅延やインターネットの通信速度の改善を目指し、市民生活に目配りをしています。
 ギリシャ危機対策

ギリシャが受け入れるべき財政緊縮政策を緩和する姿勢を見せています。

 「ギリシャをもっと苦しい状況に追いやり、賃金と年金が下がってしまえば、どうして経済成長を生み出せるだろうか」との考え方をとっています。

 

上記の主要政策を採ることで、支持基盤の労働者層を繋ぎ止めるだけでは無く、メルケル首相に奪い取られた、ポピュリズムが台頭することを嫌うリベラル層への浸透を図っているようです

 

 

 最後に

果たしてこのムードが9月までの議会選まで続くかは疑問です。ご祝儀相場が一巡すれば支持率が下がるとの心配は党内でもあるようです。

福祉を拡充するならその財源は何か? 難民政策と治安をどう両立させるか? 公約が発表されない中、ドイツ国民は厳しい目線を注いでいます。

国際情勢も影響します。仏大統領選で極右のルペン氏が健闘したり、米独の外交対立が激化したりすると、安定志向が強まりメルケル氏が有利となります。

いづれにせよ、9月の議会選は僅差の勝負となり、2大政党の大連立は避けて通れない様相です。

フランスのようなナショナリズムの政治リスクがないことは、欧州の政局安定の好材料です。

★12年間のメルケル長期政権を国民がどう判断するか、その最初の材料となるのが5月以降に発表されるシュルツ氏の政権公約の中身ですね。

注目しましょう!!

 

ドイツ地方選でメルケル氏が3連勝。14日の州議会選では最大野党の牙城を崩しました。(2017/5/15)

 

f:id:Hatabou:20170515153725j:plain

ドイツ西部、ノルトライン・ウェストファーレン州で行われた14日の州議会選挙で、メルケル首相が率いる保守系キリスト教民主同盟(CDU)が勝利を確実にしました。

同州は最大の人口を抱え、9月の連邦議会選挙の前哨戦との位置付けで、ドイツ社会民主党(SPD)の失速が鮮明で、メルケル氏は首相続投に向けて前進しました

同州はSPDの地盤で、選挙戦序盤はSPDがリードしていました。ただし、公共放送ARDによると、14日の選挙の得票率はCDUがSPDをかわしました。CDUは3月のザールラント州、5月のシュレスウィヒ・ホルシュタイン州でも勝利しており、連邦議会選に向けた3つの前哨戦を全勝したことになります。

「SPDにとって厳しい日だ。重要な州選挙で敗れてしまった」。SPDのシュルツ党首は敗退を認めました。

政経験が無い同氏は「新鮮さ」を前面に出し、首相候補として一時はメルケル氏を超える人気を集めしたが、選挙戦では強みを発揮できず、前回2012年の選挙の得票率でCDUに10ポイント以上の差をつけた牙城を守れませんでした。

何故このような結果になったのでしょうか?

  1. CDUを勝利に導いたのは欧州の先行き不透明感が強まるなか、有権者が「新鮮さ」より「実績」や「安定感」を重視したためです。
  2. 幻想を抱くな――。欧州連合(EU)を離脱する英国に対して、メルケル首相は厳しい態度をみせています。選挙直前の5月初め、ロシアのプーチン大統領との首脳会談ではウクライナ問題などで一歩も引かず、ロシア国内の人権問題にも注を付けました。「トランプ政権の誕生」や「英国のEU離脱」そして「極右勢力の台頭」で欧州の先行きの不透明感が増すほど、強いリーダーを演じるメルケル氏の人気が高まる構図なったようです。
  3. 14日に選挙が行われた州の中核都市ケルンでは15年の大みそかに外国人による集団暴行事件がありました。地元メディアの調査によると、治安への不安が中道左派のSPDよりも保守派のCDUに優位に働いた面があり、教育やインフラなどでの州政府への不満も、SPDには逆風になりました。

今回の敗北でシュルツ氏の危機感は高まりました。

今後の政策公約発表で、大逆転を図っていくものと思われます。

大いに期待したいですね。

 

ドイツ連邦議会選挙まで約1カ月になり、メルケル首相4選が現実味を帯びてきました。(2017/8/21)

f:id:Hatabou:20170822211843j:plain

メルケル首相の勝利を予想する根拠

前回の記事の通り

  • 失業率が3%台と経済が好調なこともあり、国民が「実績」や「安定感」を重視。
  • 「トランプ政権の誕生」や「英国のEU離脱」そして「極右勢力の台頭」で欧州の先行きの不透明感が増すほど、強いリーダーを演じるメルケル氏の人気が高まっていること。

そして

  • ライバルの魅力をみえにくくする「争点潰し」ともいえる戦略もあります。メルケル氏がマクロン仏大統領との蜜月を演じたことで、親欧州というシュルツ氏の看板はすっかりかすみました。
  • 大規模減税や子育て支援でも、保守派であるはずのCDU・CSUが、中道左派SPD顔負けの大盤振る舞いを打ち出し、違いを分かりにくくしました。

その結果

  • CDU・CSUの支持率は40%近くに達し、SPDを15ポイントもリードしています。したがって「勝ったも同然」との雰囲気が同氏周辺からも漂っているのです。

そのような情況下での波乱要因

自動車産業ディーゼル問題やテロ対策など、対応を誤れば状況が一変しかねない波乱要因も残ります。

ディーゼル問題

ディーゼルの排ガス問題がドイツの産業界を揺らしています。ドイツ政府は産業界、自治体とディーゼル車530万台の無償修理で合意しましたが、合意内容が産業界寄りで不十分との批判がくすぶっています。

  • SPDのシュルツ氏は欧州規模で電気自動車の比率を取り決める公約を打ち出しました。
  • メルケル氏も英仏が進める化石燃料車の廃止の「アプローチは正しい」と認め、トップ主導で問題解決をはかるという姿勢を示さざるを得なかったようです。
テロ対策
  • スペインの大規模テロの余波も続きます。メルケル氏はすでに難民抑制にカジを切り、警察官の増員などの治安対策にも力を入れているます。それでも仮にドイツ国内で新たなテロが発生すれば、対応いかんによっては選挙戦に影響が及びかねない情況です。

 

連邦議会選挙まで約1カ月です。

現状を冷静に判断するとメルケル首相の4選は確定的でしょうね。

でも、選挙が終わるまで何が起こるか分かりません。

庶民派『シュルツ首相』に誕生には波乱要因が不可欠ですね。

 

 社会民主党議席を減らし、シュルツ首相誕生の夢は水泡に帰しました。(2017/9/26)

f:id:Hatabou:20170930162059j:plain

24日に実施されたドイツ連邦議会(下院)選挙に関し、選挙管理委員会は25日、各党の得票率と議席数を発表し、メルケル首相(63)率いる保守のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は得票率を前回から8・5ポイント減らして33%になったものの第一党を維持し、メルケル氏は首相四期目を確実にしました。

 

f:id:Hatabou:20170930154929j:plain

 

ただし、メルケル氏のCDU・CSUは246議席単独過半数に届かず、他党と連立交渉を行うことになりました。

現在連立を組む中道左派社会民主党(SPD)の得票率は5・2ポイント減の20・5%にとどまり、シュルツ党首(61)は政権からの離脱を表明しました。

メルケル氏は中道の自由民主党環境政党90年連合・緑の党との三党連立を模索するとみられます。(自由民主党の得票は10・7%、緑の党は8・9%)

新興右派「ドイツのための選択肢(AfD)」は12・6%で第三党に躍り出て初めて国政に進出し、ドイツ政界でも右派ポピュリズム大衆迎合主義)が一定の勢力となり、今後の政権運営上大きな波乱要因となりました。

 

最後に

今年1月に彗星のごとく現れたシュルツ党首は、その「率直な姿勢」と「庶民的な人柄」を買われ人気が急上昇し、一時期、メルケル氏と対等に戦える状況に持ち込みした。

しかし、失業率が3%台と経済が好調なこともあり、国民が「実績」や「安定感」を重視し、「英国のEU離脱」そして「極右勢力の台頭」で欧州の先行きの不透明感が増すほど、強いリーダーを演じるメルケル氏の人気が高まったことなどから、支持率を伸ばすことが出来ませんでした。

シュルツ党首は政権運営から離脱します。

4年後の議会選挙に向けて、捲土重来、新たな挑戦に大いに期待したいですね。

 

 

hatabou.hatenablog.com

 

hatabou.hatenablog.com

 

 


にほんブログ村