クラシックギターの名曲に「椿姫の主題による幻想曲」があります。著名なオペラ「椿姫」の有名な旋律を使ったアレンジ曲です。19世紀半ば、ヴェルディと同世代の著名な演奏家・作曲家であるタレガの作品と言われています。(諸説ありますが)とても華やかで軽快で終盤で盛り上がる作品で、私も以前よく演奏していました。
なぜ今回オペラ「椿姫」のことを唐突にブログ記事のテーマにしたのかと申しますと、日本経済新聞の夕刊コラム「あすへの話題」に寄稿された文化人類学者・上田紀行氏の記事がとても印象的だったからです。一部その内容をご紹介しますと
オペラのカーテンコール、新国立劇場の舞台中央で指揮者が涙を拭っていた。
(一部省略)
ヴィオレッタ中村恵理の全身全霊をなげうった哀切きわまりない絶唱に、会場は静まりかえり、すすり泣く。終演後は万雷の拍手。オペラはどんな悲劇でもカーテンコールで歓(よろこ)びを爆発できる。指揮者が呼び寄せられ舞台の中央に。しかしそこからが違った。歌手たちが客席を指さす。そして彼はそこから涙が止まらなくなった。聴衆が掲げていたのはウクライナ国旗だった。
ウクライナ人指揮者ユルケヴィチは胸のチーフに何回も触れながら、涙をぬぐった。ウクライナカラーのチーフ。来日直後に母国が侵攻された中、公演を成功に導いた。魂が引き裂かれる毎日、どんな思いで椿姫に向き合ったのだろう。気づくとオーケストラのコンサートマスターが立ち上がって熱烈に舞台に向かって拍手をしていた。ロシア生まれ、滞日約30年のニキティン。
今月中旬に「新国立劇場」で公演されたオペラ「椿姫」の終演後に起きた、いわばハプニングでした。
音楽は民族を超えた共通言語と言われています。
その旋律やリズムや和音を通してシンパシーが生まれ、人々は涙しその気分を分かち合うのでしょう。
上田氏はコラムの最後でこう述べて感情を総括しています。
「泣いた。この一瞬に。希望に。いや無力さに。分からない。ただただ泣いた。」
「無力であることのやるせなさと音楽にわずかな希望を託したい」と言う混沌した複雑な気持ちが私にもふつふつと沸いて来ました。
でもこれだけは言えます。「音楽は裏切らない」
最後に「椿姫の主題による幻想曲」の演奏をご紹介したいと思います。私の大好きな朴葵姫(パク・キュヒ / Park Kyuhee)の名演奏です。