・記事最新更新日 2018/3/8
最近、世界的規模で生じている政治の流れに大きな《違和感》を感じていました。
その《違和感》をよく噛み締めてみますと、その本質が見えて来ました。
国際政治の『大きなうねり』あるいは『変革・変動』こそが《違和感》の真の姿でした。
これまで書いてきた4つの記事は、その『うねり』を自分なりに感じ・咀嚼し・判断したものでした。
大きな括りで言いますと
大きなうねりの連鎖
- 昨年6月の英国EU離脱決定に始まり
- 同年11月にトランンプ氏が大統領選に勝利し
- 同年12月のオーストリアでは大統領選挙で極右「自由党」が惜敗したものの大躍進しました。
- フランスでは極右政党「国民戦線」が支持率第1位に躍り出て、今年4月から始まる大統領選挙の台風の目になり
- ドイツでは、絶対的人気のあったメルケル首相は、野党第1位の新党首シュルツ氏の登場により、支持率は逆転され、今年9月の総選挙は不透明になりました。
- 3月15日のオランダ総選挙では、反EU・移民排斥を掲げる極右政党「自由党(PVV)」が、第2党に躍進しました。
写真左:ウィルダース蘭「自由党」党首 写真右:ルペン仏「国民戦線」党首
今回、EU諸国内で第3番目の国力を持つイタリアでも、『大きなうねり』が起きようとしています。
昨年12月に実施された国民投票が否決され、レンツィ首相は不信任を突き付けられました。
国民投票の否決を強く訴えていた野党第1党の『五つ星運動』は、この結果に勢いづき、遅くとも来年春までに実施される総選挙の主役に躍り出るのではないかと注目されています。
では、政党『五つ星運動』ついて少しだけ掘り下げていきます。
政党『五つ星運動』とは
政党成立経緯
2009年10月、コメディアン”ベッペ・グリッロ氏”と企業家で政治運動家の”ジャンロベルト・カザレッジョ氏”によって設立されました。
(なお、カザレッジョ氏は昨年4月死去)
政党の性格
欧州他国と違うことは、『五つ星運動』が右派でも左派でもないポピュリスト政党であることです。
党の指針
『五つ星』という名前に基本的な党の指針が示されています。社会が守り抜くべき五つの概念のことです。すなわち
- 【発展】
- 【水資源】
- 【持続可能性のある交通】
- 【環境主義】
- 【インターネット社会】
具体的な活動方針
「反体制」を基本にし、大衆の不満に率直な賛同する『ポピュリスト政党』として、以下の政策実現 のため、インターネットやSNSを使い、積極的な政治活動を行っています。
1.雇用制度の安定化
2.EUからの離脱に対する国民投票の実施
3.議員制度改革
- 国家議員の任期を2期10年までとする。
- 国家議員の歳費を労働者の平均年収まで下げる。
- 有罪が確定した人物は国家議員に出馬出来ない。
4.縁故主義打破
6.政府債務の再編
この政党が支持される背景
1. 20年に亘る経済の停滞があります。
1993年にEU発足以来、23年経過しましたが、イタリアは経済が好転することも無く、ギリシャに次いで欧州第2番目の債務国に陥落しました。
世界経済の停滞を救う筈だったグローバリズム、その象徴であるEUが機能せず、自国に利益をもたらさない事がはっきりして来ました。
失業率(特に若者)の高さが、如実にその事実を物語っています。
- 昨年8月の失業率は11.4%(ドイツ4.2%)
- 若年層(15〜24歳)の失業率は35%
2. 政治腐敗(汚職の蔓延)
マフィアと結びついた汚職は後を絶たず、政治不信はかなり強まっています。
3. 縁故主義のはびこり
ネポティズモ(=縁故主義)が壁となり、高等教育を受けた若者でもコネ無しでは希望の仕事に就くことは非常に困難な社会情勢があります。
4. 市中銀行の不良債権問題
経済の長期低迷は、当然ながら市中銀行の不良債権を増加させました。大型増資や債務の株式化で対応しようと国とEUは考えていますが、中堅行以下の銀行の問題は根深く、地雷を抱えたままの状態が続いています。
支持者層
雇用不安や増税に不満のある中流層・下流層及び若者から急速に支持を集めてきました。
政党支持拡大の軌跡
- 2012年4月のイタリア統一地方選で、パルマ・ ミーラ・コマッキオなどの首長ポストを獲得。
- 同年10月の南部シチリア州の知事・議会選で比較第1党になり、地方政界で次第に存在感が増して来ます。
- 2013年のイタリア総選挙では、遂に、中道左派・中道右派の二大政党連合を押し退ける勢いで、大躍進しました。単独政党別では、中道右派連合の盟主である「自由の人民(PDL)」を上回り、「イタリア民主党」に次ぐ第2党になりました。
- 昨年6月の首都ローマの首長選では、『五つ星運動』所属の女性市会議員が立候補し、ローマ初となる女性市長が誕生しました。北部の工業都市トリノでも同党所属の女性候補が勝利しています。
写真下:ローマ初の女性市長ビルジニア・ラッジ氏
政党『五つ星運動』の今後について
政権獲得の可能性が高まる中、課題も見えて来ました。
創設者のグリッロ氏は過去に有罪判決を受けているため、党の内規で選挙への出馬が禁じられています。
よって、首相候補者の選択が悩ましくなっています。
- 今までは、グリッロ氏より首相候補として育てられてきたルイジ・ディマイオ氏(30)が本命とされていましたが、ここに来てロベルト・フィコ氏(42)が対抗馬として現れ、さらに第3の候補者としてサンドロ・ディバティスタ氏(38)も登場しました。
- 政党『五つ星運動』は実体的な組織構造を持ってないため、政党の重要性が増すとともに、メンバーの個人的な野心と内部の軋轢も高まる可能性もあります。
そのようなリスクは内在するものの、2013年のイタリア総選挙での大躍進以降、この政党の勢いは増すばかりです。
今年1月には、なんと「親EU派」に鞍替えするとのニュースが流れました。
イメージチェンジを図り、いよいよ広く国民の支持を得ようとする意図でしょうか⁈
最後に
真の国民の痛みに寄り添い、国民の《期待の星》になるのか、あるいは単なる《ポピュリスト政党》にとどまるのか、これからの動向がとても気になります。
与党民主党がファイテングポーズを見せました。(2017/4/30)
イタリアのレンツィ前首相が4月30日、連立与党を率いる中道左派・民主党の書記長(党首)に返り咲きました。
レンツィ氏は次期総選挙で勝利し、首相に復帰するシナリオを描いているとされ、来年3月の議員の任期満了前に総選挙に打って出る可能性が高まって来ました。
レンツィ氏が首相に返り咲くには、総選挙での勝利が必須条件ですが、勝利できるかは不透明な情勢です。
と言うのも、2月には中道派に近いレンツィ氏に反発する党内の左翼グループが離党し、党内が混乱した影響で、民主党の支持率はEU懐疑派の「五つ星運動」を下回るようになっています。(調査会社EMGが4月25日に公表した政党支持率の世論調査では、「五つ星運動」が約29%で首位を走っており、民主党は約27%で2位に留まっています)
この事実は根深く、欧州政治は混乱の火種を残したままになっています。
レンツィ氏は総選挙前に必要となる選挙法の改正を進めつつ、6月の地方選挙の動向を見極める意向とみられ、先の演説では総選挙の実施時期についての言及を避けました。
イタリアの総選挙で仮に各政党が現在の各種世論調査の支持率通りに票を獲得すれば、首位の五つ星や2位の民主党を含め、単独で政権を奪取できる政党はありません。
五つ星は既存政党との連立を全面的に拒否しているため、ポピュリスト政党が政権与党となるリスクは低いとみられていますが、民主党も現在連立を組んでいる小党が十分な議席を確保できない場合、政治的な混乱は長引くことが予想されます。
いよいよ、与党民主党が動き始めましたね。『五つ星運動』の反撃が楽しみになってきました。
イタリア総選挙は戦前の予想通り、混乱をもたらしました。(2018/03/06)
イタリア総選挙(上下院)が四日投開票され、欧州連合(EU)懐疑派でポピュリズム(大衆迎合主義)的な新興政治組織「五つ星運動」が両院で躍進し単独政党では第一党となることが確実になりました。中道右派連合、中道左派連合を含め、いずれの勢力も過半数に届かず、連立協議による政権発足には一カ月程度かかるとの見通しです。
「五つ星運動」のディマイオ党首(31)は五日、ローマの党事務所で「われわれが選挙の完全な勝者だ。もはや選挙連合は意味を成さない」と宣言。2009年の結党から9年目での政権樹立に意欲を見せました。
右派では、極右に近く、反移民、反EUを掲げる「同盟」が17・4%で、脱税事件で立候補できなかったベルルスコーニ元首相(81)の「フォルツァ・イタリア」を抑えて最大勢力になりました。民主党は18・7%と大敗し、ANSA通信によるとレンツィ前首相(43)は書記長を引責辞任すると表明したようです。
選挙は、高い失業率など低迷する経済や移民・難民への対策が争点。現状への不満を背景に、既存政治への批判を繰り返す「五つ星運動」と、移民退去を訴える「同盟」が大きく躍進する結果になりました。
マッタレッラ大統領(76)は23日に議会を招集、各党の協議を経て組閣指示をする見通しですが、過半数を取れる組み合わせを見つけにくいだけに、交渉の行方は混沌としており、政治の混乱は長引く可能性があります。
当然のことながら、「五つ星運動」は政権入りを狙っていますが、ディ・マイオ党首は5日「全ての政党が五つ星のところに協議に来なければいけない」と発言し、同党が新政権の中心となるべきだとアピールしました。かねて連立を否定しており、政策ごとの閣外協力を求めるなどの案を検討しているとみられます。
政治の混乱は当然、EU全体にも大きな悪影響を及ぼす危険性があります。
今後の1か月の政治駆け引きに目が離せません‼