・記事最新更新日 2017/6/26
フランスが揺れています。
極右政党「国民戦線(FN)」の党首マリーヌ・ルペン氏が、仏大統領選の世論調査では他の候補者を押し退けて、トップの人気を維持しているからです。
もし「ルペン大統領」が誕生したらどうなるのか、多少の現実味を帯び始めた中、警戒感が増して来ました。
どうしてこんな事になったのでしょうか?
実は「国民戦線(FN)」の変貌と外部環境の変化がその大きな要因です。
「国民戦線(FN)」の変貌
1.FNの創設
1972年 ルペン氏の父、ジャン・マリー・ルペン氏が右派勢力を集めて創設しました。
政策は、排外主義、国粋主義、独裁主義を貫き、移民の制限、犯罪者への寛容ゼロの立場から死刑の復活を唱え、国籍には血統主義をとり、ナチスのガス室に懐疑的発言を繰り返す等の暴言癖もあり、泡沫(ほうまつ)政党に過ぎませんでした。
2.FNの転機
2011年 実父ジャン・マリー・ルペン氏の推薦があり、マリーヌ・ルペン氏が第二代党首に就きました。
<マリーヌ・ルペン氏の経歴>
・1968年 パリ郊外ヌイイ・シュル・セーヌ生まれの48歳。
・パリ第二大学卒業後、弁護士として活躍。
・2003年 FNの副党首に選出される。
・2004年 フランス地域圏選挙に当選し、本格的に政治活動を開始。
・同年 欧州議会議員選挙に当選し、2009年・2014年も再選される。
・2011年 FNの党首に選出される。
・2012年 大統領選挙に立候補。FN初の女性候補として話題を呼び、第1回投票で3位に食い込む。
マリーヌ・ルペン氏は穏健化路線に舵を切り始めたことで、流れが変わってきました。
その背景には、ルペン氏が真剣に国政への進出を視野に入れ始めたことがあります。
主張はマイルドなものに転換しました。
このソフト化路線へのシフトを、ルペン党首が自ら「脱・悪魔化」と呼んでいます。
2015年8月ルペン党首は、ホロコーストに関する発言を再び行った、実父ジャン・マリー・ルペン氏を何と除名処分にしました。
そして、ルペン氏は女性へのイメージ戦略を次の通り実施してきました。
・ルペン氏のブログには「自由な女性であり、母親、フランス人。国の為に尽くすことを選んだ」と書いています。
・ルペン氏は自身を《弁護士の資格を持ち、現代の働く女性像を体現している》と政党を通じてメディアに訴えています。
この結果、ルペン党首が就任して以降は女性の支持も上昇しています。
こうやって、FNは徐々に国民に身近な政党に変貌してきました。
外部環境の変化
- 景気停滞に伴う失業増や移民増に伴う社会不安に対して、それぞれ有効な手段を打てないでいる二大政党への不満の高まり。
- そんな状況下で発生した2015年のパリ同時多発テロによる恐怖。
- イギリスのEU離脱問題。
- 米国のトランプ大統領誕生。
★以上の通り「国民戦線(FN)」の変貌と外部環境の変化がFNへの期待を膨らませることになり、ルペン大統領誕生を後押ししているのです。
このようなフォローの風が吹く中
2月4日、マリーヌ・ルペン氏の発表した公約概要は以下の通りです。
<国家主権を取り戻す>
そのために以下の公約を果たす。
・ユーロから離脱し、自国通貨「フランス・フラン」への回帰。
・シェンゲン協定(ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許す協定)からの離脱。
・移民受け入れを1万人に制限する。
・1万5千人警官を増員し、警察署と刑務所も増やす。
・あからさまな人種差別的表現は慎重に避けて、イスラム過激派がもたらす脅威だけを論じる。
・輸入品と外国人労働者には課税し、外国からの投資は厳しい統制下に置く。
・軍事支出を大幅に拡大し、新たな装備は全て国内の軍需産業から調達する。
・所得税を大幅に減税し、財産贈与の非課税枠を大幅に拡大する。
この発表では、権力を獲得した場合の構想を144の「大統領公約」という形で明示しています。
公約中の施策は「理知的な保護主義」を示しているため、以前より幅広い支持を得ています。
前回大統領選の公約であった「死刑制度復活」「宗教色の強いものを身につけての公的施設への入館禁止」は今回は消えました。
翌5日の演説では、トランプ米大統領誕生や英国のEU離脱決定などを挙げ、「歴史の風向きは変わった」とボルテージを上げています。
他の有力候補者は心もとない状況が続いています。
ルペン氏の対抗馬とみられる中道系の独立候補「マクロン前経済産業デジタル相(39)」は、投資銀行出身で経済には強いのですが、議員経験がないため政治基盤が脆弱で不安が多いですね。
もうひとりの有力候補である共和党・中道右派の「フィヨン元首相(62)」は、家族への不正給与疑惑が広がり、支持率が低下しています。
ルペン大統領は誕生するのか?
多くの有識者が「難しい」との見方を示しています。
その根拠は
- 仏大統領選は2回投票制で、第1回投票で首位となっても、決選投票で「極右の伸長を防ぐメカニズム」が働く。
- 多くの国民はFNの「移民や対EU施策」は過激と感じている。英米に比べ、社会保障が手厚く格差も大きくない。故に、テロ等の不測事態が発生しない限り、現時点では国民の多くが過激な選択はしない。
ということです。
本当にそうでしょうか?
トランプ氏のことを思い出して下さい。
誰れもがトランプ氏の当選を予想していませんでした。
もし、支持をしながらも公言しない《隠れルペン》が多く潜んでいたら……
いよいよ4〜5月のフランス大統領選が“きな臭く”なって来ました。
ついにマクロン氏の反撃開始か?(2017/3/3)
3月2日、パリ市内でマクロン氏が政権公約を発表しました。
ルペン氏率いる国民戦線(FN)との差別化をかなり意識した内容です。
外交・安全保障面
シェンゲン協定(地域内の自由移動)について
- マクロン氏: 協定を堅持する。
- ルペン氏 : 協定から離脱する。
財政運営面
以上の通り、両者の公約は極めて対照的ですね。
3月1日、調査会社「Ifop」が公表した調査結果では
第1回投票(4/3)での支持率予想は
- ルペン氏 25.5%
- マクロン氏 24%
- フィヨン氏 21%
第2回決戦投票(5/7 上位2名)では
なぜなら「ユーロ離脱は資本流出を招き、フランが暴落する。そうすると、購買力の落ちた家計にしわ寄せがいく」との思いから、国民の多くがFNの過激さに対する拒否感と警戒心は変わらないと推測しているからですね。
果たしてどう動くのか?
いよいよ、本選に向けた政策論争がスタートします。
何とロシアのプーチン大統領がルペン党首と会談(2017/3/24)
ロシアのプーチン大統領が24日、モスクワを訪問したルペン党首と会談しました。
ロシア大統領が選挙前の他国党首と会談することは異例であり、その意図が憶測を呼んでいます。
プーチン氏はルペン氏との会談で「今起きていること(仏大統領選)に影響を与えることは望んでいない。しかし、我々にはどの党の代表であれ、つきあう権利がある」と述べ、ルペン党首を評価する考えを示しました。
今回の訪問で垣間見えたルペン党首の『対ロシアのスタンス』は、以下の通りです。
ルペン党首は4月の大統領選に向け、いよいよ最後の賭けに出ました。
かなりのインパクトを与えたことは事実ですね。
フランスは主権を取り戻すべきだという持論を繰り返していますが、このアクションが吉と出るのか凶と出るのか、興味は尽きませんね。
「反ユダヤ的発言」が批判を浴びています。投票動向に影響か?(2017/4/12)
フランスの極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が第二次大戦中、ナチス・ドイツに協力して仏国内で行われたユダヤ人一斉検挙事件について、フランスの責任を否定する発言を行い、批判を浴びています。
第1回投票を23日に迎える大統領選に影響を与える可能性も出てきました。
ルペン氏が言及したのは1942年、仏警察がユダヤ人約1万3千人を拘束してパリの競輪場に監禁した事件。ユダヤ人はその後、強制収容所に送られました。
ルペン氏は9日、事件について「権力を当時握っていた人々に責任はあっても概してフランスに責任はない」と仏メディアで語りました。
フランスではシラク元大統領がユダヤ人迫害への加担について「国の責任」を認めており、発言にはルペン氏と支持率で首位を争うマクロン前経済相が「政治的にも歴史的にも誤り」と批判。仏メディアでも「一線を越えた」(仏紙ルモンド)との非難が上がり、ユダヤ人団体は「修正主義」と不快感を示しました。
ルペン氏は党創設者の父、ジャンマリ・ルペン氏時代の「反ユダヤ的」なイメージの払拭を図り、支持を広げてきただけに、「投票動向の点で打撃となるかもしれない」(仏世論調査機関)とも指摘されています。
何故この時期にこの様な危険な発言をしたのでしょうか? 確信犯なのでしょうか?
ますます大統領選は混沌として来ましたね。
大統領選まで1週間を切り、急進左派・左翼党「メランション候補」の支持率が第3位に急浮上し、混乱は増すばかり!! (2017/4/18)
調査会社Ifopフィデュシアルが行ったフランス大統領選に関する最新の世論調査によると、4月23日の第1回投票での各候補者の支持率は、極右政党・国民戦線(FN)のルペン候補24%、中道系独立候補のマクロン氏23%、急進左派のメランション氏19%、右派候補のフィヨン氏18.5%となり、メランション氏が3位に浮上しました。
2位のマクロン氏とメランション氏との差はわずか4%ポイント。有権者の約3人に1人はまだ投票する候補を決めておらず、極右のルペン氏と極左のメランション氏が上位2名による決選投票に進む可能性も出てきました。
欧州連合(EU)が求める緊縮策に反対してきたメランション氏は、選挙公約として
- 北大西洋条約機構(NATO)離脱
- 自国経済の主権拡大に向けたEU条約の再交渉
- 自由貿易協定からの撤退
- 1000億ユーロ(約11兆6000億円)の景気刺激プログラム
- 企業の従業員解雇の制限、経営幹部の報酬規制、最低賃金の15%引き上げ、一部の年金支給開始年齢の60歳への引き下げ
- 富裕層への100%課税
を掲げています。
クレディ・アグリコルの為替戦略部長は、メランション氏をめぐる新たな動きを踏まえると、第1回投票に向けたリスクは拡大しているとした上で「極右候補と極左候補が対決するリスクはこれまで誰も予想していなかったものの、ここにきて可能性を排除すべきでない」と分析しました。
もし、この2氏が決戦投票に勝ち上がると、ユーロ離脱が現実味を帯びるため、欧州債券相場や外国為替市場に影響を与え始め、欧州金融市場はすでに神経質な動きが展開しています。
ここまで来ると、大統領選は全く分からなくなりました。
仏大統領選第1回投票が終了しました。(2017/4/25)
23日実施したフランスの大統領選の第1回投票は、即日開票の結果、大方の予想通り、独立系中道候補のエマニュエル・マクロン元経済産業デジタル相(39)が首位、極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(48)が2位となりました。
いずれの候補も過半数を獲得できず、大統領の選出は5月7日に実施する第2回の投票に持ち越され、欧州連合(EU)に対する立場が大きく異なる両候補が決選投票に進出し、EU統合の行方をかけて争うことになります。
仏内務省によると、96%の開票時点で無所属のマクロン氏の得票率は23.90%、ルペン氏が21.42%で、3位には共和党(中道右派)のフランソワ・フィヨン元首相(63)が19.94%で続き、急進左派・左翼党のジャンリュック・メランション氏(65)が4位で19.56%でした。事前の世論調査どおりの接戦となり、投票率は78.27%と前回の9.48%から1ポイント強低下しました。
マクロン氏は第1回投票を首位で通過したことを受けて、「国家主義者の脅威に立ち向かう愛国者の大統領になりたい」と支持者に訴えるとともに、EUとの統合強化や経済改革を通じて、フランスの競争力を高めることを強調し、支持拡大を狙いました。
一方、ルペン氏は「これは歴史的な結果だ。私にはフランスを守る大きな責任がある」と、躍進に自信を示しました。反EUを掲げるルペン氏は今回の有権者の支持を背景に、移民の制限やユーロ圏からの離脱などの持論を改めて主張するとみられます。
両候補はEUとの関係で立場を異にします。決選投票の結果は、EUの将来にも大きな影響を及ぼす恐れがあり、調査会社Ipsosが23日実施した世論調査によると、決選投票ではマクロン氏の支持率が62%、ルペン氏が38%になるとの予想で、マクロン氏が優勢とみられています。
フィヨン氏は23日、大統領選の敗北を認めた上で「極右に反対票を投じるには、ほかに選択肢はない」と述べ、マクロン氏の支持を表明。得票率で5位にとどまった社会党のブノワ・アモン前国民教育相(49)もマクロン氏に投票する意向を示しています。
一方、メランション氏は態度を明らかにしておらず、同氏の支持票の行方が決選投票の行方を左右する可能性があります。
果たして、決戦投票は予想通りになるのでしょうか? テロも起こっています。隠れルペン支持者もいるはずです。
両者のこれからの発言・動向に注目です。
ルペン党首は決戦投票に向けて動き始めました。(2017/4/27)
ルペン氏はマクロン氏との決選投票で劣勢とみられています。
仏調査会社Ifopが24日発表した世論調査の支持率では、マクロン氏60%に対し、ルペン氏は40%と20ポイント離されています。
5月7日の投票まで2週間を切っており、ひっくり返すのは容易ではありません。
ではどうするのでしょうか?
1.極左票の取り込みに照準を定めて動き始めました。極左票が勝敗を左右する可能性も残っているからです。
おきまりの厳しい移民批判を抑えたほか、弱者救済の政策をアピールしています。
ルペン氏は24日、仏テレビ「フランス2」に出演し、「野蛮なグローバル化からフランスを守りたい」と訴えました。いつもは厳しい表情でイスラム過激派や移民への批判を激しくまくし立てますが、鳴りを潜めました。
23日の1回目投票で4位と敗れた急進左派のジャンリュック・メランション氏の公約に重なり、極左票の取り込みが狙いの一つなのは明らかです。メランション氏は欧州連合(EU)の離脱も辞さず、保護貿易への転換、社会保障の大幅な拡大を掲げていました。
メランション氏の支持者をうまく取りこめば、ルペン氏には挽回のチャンスが出て来ます。1回目投票でメランション氏は得票率約20%を得ましたが、勝ち残った2人のうちどちらを支持するか明言していません。
世論調査などからの予測では、1回目にメランション氏を選んだ有権者のうち半分がマクロン氏支持に回り、ルペン氏に2割が投票、3割が棄権するとみられています。
ルペン氏は働きかけを強めれば一層票を積み上げられるとみて、左派が受け入れやすい中小企業や労働者保護などの公約を訴える戦略とみられています。一方、極端な移民批判は和らげる可能性があります。
2.中道右派層の積み上げも必要で、既に複数の共和党(中道右派)議員と接触を始めました。
1回目投票で3位で敗れた同党(中道右派)のフランソワ・フィヨン元首相はマクロン氏支持を呼びかけたものの、実際には3割がルペン氏に流れるとみられます。
一方、マクロン氏は23日夜、声明で「どの政党の議員でも(仲間として)迎え入れたい」と語り、共和党の有力議員であるアラン・ジュペ元首相が24日、決選投票でマクロン氏に投票すると発言するなど支持が広がっています。
マクロン氏は大きな失言を避け、このまま逃げ切る戦略です。
<5月3日にはルペン氏との一対一のテレビ討論があります。>
政治の経験不足が弱点で、ディベートが得意なルペン氏との対決をいかに乗り切るかが焦点になります。
フランスの大統領選は2回投票の形式を取るため、決選投票で有権者はある程度の妥協を余儀なくされます。そのため勝ち残った候補者は微妙に発言や公約の解釈を変えるなどして、幅広い有権者の声を集めようとする傾向があります。
5月3日のテレビ討論が楽しみになって来ました。
仏大統領選討論会はマクロン氏優勢 (2017/5/4)
7日の仏大統領選の決選投票を控え、3日夜行なわれた候補者によるテレビ討論会では、2時間半にわたり経済やユーロ、テロ対策などでマクロン、ルペン両氏が激しい応酬を展開。その結果、マクロン前経済相がFN党首ルペン氏に勝ったとの見方が優勢となっています。
BFMTV向けにエラブが実施した世論調査によると、テレビ討論会でより説得力があったのはマクロン氏との回答が63%に達し、ハリス・インタラクティブの調査では42%がマクロン氏と回答しました。
これに加え、6月の議会選に関する初の世論調査では、マクロン氏が設立した政治運動「前進」が第一党に踊り出る勢いであることが判明しました。仏経済紙レゼコー向けにオピニオンウェイ─SLPVが実施した調査によると、前進は249─286議席を獲得する見通し。中道と保守派が約200─210議席、FNは15─25議席、社会党は28─43議席と予想されています。
マクロン氏当選との見方から、4日の金融市場では買い安心感が広がり、ユーロ、仏株・債券がいずれもしっかりとなりました。
またオバマ前米大統領はビデオメッセージで、マクロン氏は「人々の恐怖心ではなく期待に訴えかけている」と評し、支持を表明しました。
終了間際にルペン氏はマクロン氏がオフショアの口座に資金を隠していると示唆し、マクロン氏はこれを否定しています。
司法筋によると、マクロン氏の申し立てを受けて、検察当局は意図的に偽ニュースを流布し、大統領選の結果に影響を与えようとしていなかったか、疑惑の調査に着手しました。
ルペン党首は焦っているのか、禁じ手に出ました。
ルペン大統領誕生は風前の灯火になりましたね。
仏大統領選、マクロン氏が勝利! ルペン氏は敗北を認めました。 (2017/5/8)
フランス大統領選挙は7日、決選投票が行われ、内務省によりますと、開票はほぼ終わり、マクロン候補の得票率が66.06%、ルペン候補が33.94%で、マクロン氏がルペン氏を破って勝利しました。