落語に新しいブームが到来しているのはご存知でしょうか?
04〜07年頃にも落語ブームがありました。
落語家が主人公のドラマ「タイガー&ドラゴン」やNHKの朝ドラ「ちりとてちん」が放映された事で、お茶の間に落語ブームが広がりました。
しかし、そのブームも一過性のもので、長くは続きませんでした。
あれから10年が経ち、再度ブームが到来しました。
だだし、若者層から徐々に浸透している現在の落語熱は、以前のブームとは様相が大きく異なっています。
新しいブーム到来の要因とは
落語に接する間口が格段に広がったこと
不景気な時代が続いていることもあり、落語家数が江戸時代以降で過去最高の800人までに膨らみ、「新宿末廣亭」等の老舗寄席以外の場所で落語会を開く機会が増えました。例えば
- 渋谷ユーロスペースで開催される「渋谷らくご」
- タワーレコード渋谷店地下のイベントスペースで開催された「渋谷タワレコ亭」
- 東京神田神保町の「らくごカフェ」
- 神田連雀亭の「ワンコイン寄席」
- お寺の本堂、神社の参集殿、蕎麦屋、寿司屋、居酒屋、公民館などで開かれる「地域寄席」
そこでは初心者向けなど、聴き手のレベルに合わせた多種多様な落語会が開かれ、月当たりの開催件数は首都圏で1,000件に達するまでになりました。(開催予定は、演芸専門の月刊誌「東京かわら版」などで確認できます)
落語家たちの意識の変化
落語ファンが落語を身近に感じて貰うために、落語家はホームページやSNSで小まめに情報を発信するようになりました。
以上2つの要因で、落語家と落語ファンとの距離が急速に縮まり、より落語にハマりやすい人々が確実に増えて、誰もが楽しめる娯楽として定着し、今までに無いディープなブームになったようです。
では、なぜ人々は落語に惹きつけられるのでしょうか?
一言で言うと、『人々の共感』です。
落語では、主人公は失敗ばかりする等身大の人物で、ヒーローではありません。
落語の世界では誰もが平等で、与太郎や粗忽者(そそっかしい者)泥棒までもが主人公になります。
失敗したからと言って、コケにされたることも無く、咎められてもどこか「人間の業」として許しているところがあります。
そんな主人公に聴き手は共感し、ともに笑いともに涙するのです。
落語の基本について
落語とは
落語家(=噺家 はなしか)一人で全ての登場人物を演じ分けて物語を話す江戸時代に成立した伝統芸能のことです(=話芸)。
体一つで表現し、使う道具は扇子と手拭いだけで、基本的に「座布団」と 「一段高い畳一畳くらいのスペース」があれば、どこでも演じることが出来ます。
そのため、聴き手の想像力に訴えることが落語の魅力です。
噺の最後に必ず「落ち(=下げ)」があるので、「落語」という名前になりました。
1.作られた時代による落語の分類
古典落語
- 江戸〜大正時代に作られたもの
- 現代と違う生活習慣や言葉遣いが登場するため、最初は多少違和感がありますが、時代を超えて語り継がれてきた魅力があります。
新作落語
- 昭和〜平成時代になって作られたもの
2.演じる人数による落語の分類
寄 席
落語・講談・浪曲・漫才等、レベルに拘わらず多くの演芸者が芸を披露すること(あるいは披露する常設の興行小屋のこと)
- 定 席:毎日営業している寄席
- 地域寄席:定席以外の寄席
ホール落語
数名の実力ある落語家が共演すること(あるいは劇場やホールで開催される落語会のこと)
独演会
実力のある落語家が一人で主催する落語会のこと
3. 地域による落語の分類
江戸落語
- 東京のものを言います。
- 階 級
『前座見習い』(約1年)
↓
『前座』(3〜5年)
↓
『二ツ目』(約10年)
↓
『真打ち』(生涯現役)
<落語組織・団体>
- 『落語協会』282人 会長「柳亭市馬」柳家一門が中心となっている最大派閥
- 『落語芸術協会』150人 会長「桂歌丸」
- 『五代目園楽一門会』 55人 会長「三遊亭好楽」
- 『落語立川流』58人 理事「立川談四楼、志の輔、志らく、雲水」
上方落語
- 大阪のものを言います。
- 座布団の前に机を置いたり、ネタの途中で三味線・笛・太鼓などが入ったりします。
- 階級なし
- 人数:246人
- 定席:1ヶ所(天満天神繁昌亭)
<落語組織・団体>
落語家の生活ぶり
通常、13〜16年かかって真打ちに昇進します。
真打ちになると左団扇と思いがちですが、残念ながらそうはいきません。
まず、落語家の階層分布から見ますと、全体の65%が真打ちで占められています。要するに頭でっかちの構造なのです。
そのためか、ほんの一握りの人気真打ちを除けば、真打ち(特に新米)には仕事が回って来ません。
従って、落語だけで生活出来るのは多く見積もっても100名程度です。
では実際の稼ぎの内訳を見ますと
寄席のギャラ
売れっ子でも日当で何と1,000円程度です。
ホール落語・独演会のギャラ
諸経費・交通費等を差し引くと、数万円程度です。
出張落語のギャラ
ベテラン真打ちでやっと(20万円➖交通費)程度です。
要するに、寄席のギャラはスズメの涙なので、ホール落語・独演会、地方公演のギャラで食っていくより仕方ないようです。
落語の楽しみ方
私の個人的な考えですが
まず最初は、実力落語家に絞って落語を聞きに行く事です。
落語に生で接することで、落語家の思いが直に伝わって来て、自分の想像力を掻き立て、テレビでは味わえない高揚感を味わうことが出来ます。
注意点は、最初は実力がある落語家の独演会にしてください。最初の印象が落語ファンになるか否かをほぼ100%決定します。
おすすめの落語家を3名紹介します。
柳亭三三(42)
新進気鋭の実力者
「将来の落語界を背負って立つ逸材」言われ、気難しい「落語通」をも唸らせる、古典落語の名手。最大の魅力は「口調の良さ」。聴き心地が良く、キレがあります。H27年度「文部科学大臣新人賞」受賞。
立川志らく(53)
人気・実力とも業界トップクラス
テンポが良く、話の展開が広い。登場人物の姿がくっきりと浮かび、特に女が艶っぽく表現されます。語りの格調の良さは、談志に迫りつつあります。創作落語も得意で、映画・舞台監督もやっています。
柳家さん喬(68)
熟練の域にある本物
「正統派の雄」と評され、正攻法の古典落語を堪能したい人におすすめです。穏やかで丁寧な口調で語りかける人情噺は、聴き手を物語の登場人物に感情移入させ、思わず涙を誘います。 ※今年春の褒章で「紫綬褒章」を受賞。
つぎに落語のネタを覚えることも大切です。
おすすめのネタを3つ紹介します。
人情噺
「紺屋(こうや)高尾」
人気絶頂の花魁、高尾太夫にほれた染物屋の奉公人が、真面目に働き、苦労の末に夫婦となる噺です。数ある廓話(くるわばなし)の一つ。
コツコツと純粋に愛のために働きストレートな気持ち相手にぶつけると、いくら高嶺の花でも必ずその想いは伝わるものだと、夢物語ですが、何回聴いてもこころが揺さぶられます。
「芝浜」
酒飲みの魚屋のダメ亭主と、それを支える妻の温かい夫婦愛が描かれています。
妻のちょとした機転がダメ亭主を改心させる、そのストーリー展開が聴き手を捉えて離しません。人情話の代表作です。
教訓もの
「百年目」
この内容は前回の<落語シリーズ Vol.1>で詳しく説明してありますので、是非ご覧下さい。
ある程度落語にハマってきたら、TVやネットで更に関心を深めることも出来ます。
例えば
「超入門!落語 THE MOVIE」(NHK)
噺家の語りに合わせて再現役者の口が動き、あたかも落語の登場人物たちが実際に話しているかのような臨場感を視覚的に味わうことが出来ます。
「博多・天神落語祭り」(wowow)
三遊亭円楽がプロデュースする、東西の人気落語家による日本最大の落語フェスです。
この番組を見れば、現在の落語界の縮図が理解できてとても参考になる企画です。
立川志の輔が創作落語を披露します。大ネタですが、最後まで飽きることの無い話ばかりで、劇場の切符を取るのが超困難になっています。
などがおすすめです。
大体落語の醍醐味が分かって来たら、身近な噺家を見つけファンになるのもいいでしょうね。
最後に
今回は落語の基本や、最近の ブームについて説明しました。如何でしたか?
次回以降は、落語家別やネタ別に掘り下げてお話ししたいと思います。