【2019.11.03加筆】
<幸福の硬貨>はありますか?と尋ねたら、「もう ありません…。」とつれない返事。
でも、これは寓話の中の会話ではありません。楽譜を出版元に確認した時のやり取りです。ネットで調べても全て売り切れ!
実は、2017年1月、小説『マチネの終わりに』に登場する架空の映画音楽「幸福の硬貨」を、新鋭のピアニスト”林そよか”が作曲し、クラシックギター用にアレンジされ楽譜として販売されました。でもその時はほとんど注目されていませんでした。
がしかし、2018年7月に映画化が発表され、今年6月に特報映像が解禁になるや、一気に人気に火がついたようで、上記のごとく、楽譜はどこにも無く、クラシックギター界では過去に経験のない異例の事態となりました。
小説『マチネの終わりに』について
作家「平野啓一郎」とは
京都大学法学部在学中の88年、文芸誌「新潮」に投稿し一挙掲載された小説『日蝕』が、翌年の第120回芥川賞を当時最少年の23歳で受賞し、一躍注目されました。
そして、2016年にこの小説を発表すると、たちまち発行部数30万部を突破し、渡辺淳一文学賞を受賞しました。
あらすじ
主人公の蒔野は、若くしてクラシックギターの最前線を背負ってきた若き天才ギタリスト。ある日、演奏会後の友人との食事会にて、通信社でジャーナリストとして活躍する、記者の洋子と出会う。出会った時からお互いに惹かれあった蒔野と洋子だが、実は洋子には婚約者がいた。東京・ニューヨーク・パリ・バクダットを舞台に、二人の男女の物語が繰り広げられてゆく……。
何故クラシックギターにスポットを当てたのか
かつて、ショパンとドラクロワという芸術家たちを主人公に『葬送』という小説を書き、筆者自身が幸福感を得たことから、いづれまた音楽家を主人公とした小説を書きたいと思っていたそうです。
そして、数年前、日本最高のクラシックギタリストである「福田進一」のバッハのCD(とりわけ無伴奏チェロ組曲第3番)を聞き、オーケストラとは違う深い感動を得て、クラシックギタリストを主人公とした大人の恋愛小説を書くことを決意したようです。
音楽CD『マチネの終わりに』について
製作の経緯
登場曲をインターネット上で探し出し、聴きながら読んでいるという読者からの声も多数寄せられていたことから、登場曲を一枚のCDにして小説ファンとギターファンに楽しんでもらえないか、と福田と平野の両氏は考え、選曲は両人が綿密に話し合って決定したそうです。
そして今回のCDには、福田の過去の演奏に加え、新たに録音した演奏も多数収録されています。
本ブログ記事の冒頭でも書きましたが、ストーリーの鍵を握る架空の楽曲「幸福の硬貨」は、平野作品のイメージをもとに、「林そよか」がオリジナル曲を書き下ろしました。
収録曲
小説内では40曲近い数のクラシックギター曲が登場しますが、 今回のCDでは選りすぐりの12曲と書きおろし2曲で構成されています。
小説の各章に合わせて曲目をご案内します。なお一部演奏も紹介します。
第1章:出会いの長い夜
01. ロドリーゴ:アランフェス協奏曲より II.アダージョ
02. レノン&マッカートニー/武満徹編:イエスタデイ
01.私の大好きな米国ギタリストJason Vieauxの演奏です。とても美しい音色ですね。
第3章:<<ヴェニスに死す>>症候群
03. J.S.バッハ/福田進一編:無伴奏チェロ組曲第3番BWV1009より I.プレリュード
03.バッハはどの楽器で演奏しても、違和感ありません。
第4章:再会
04. F.ソル:幻想曲 Op.54 bis より II.アレグロ
第5章:洋子の決断
05. バリオス:大聖堂
06. ヴィラ=ロボス:ガヴォット・ショーロ
07. アームストロング/鈴木大介編この素晴らしき世界
08. 林そよか:幸福の硬貨
08.日本のギタリスト林さんの演奏はとても丁寧で素晴らしいと思います。
第8章:真相
09. ピアソラ:タンゴ組曲より II.アンダンテ
10. ピアソラ:タンゴ組曲より III.アレグロ
09.10 恐らく素人だと思いますが、かなり優れた演奏だと思います。
第9章:マチネの終わりに
11. ブローウェル:黒いデカメロンより I.戦士のハープ
12. ブローウェル:黒いデカメロンより III.恋する乙女のバラード
13. ブローウェル:ギター・ソナタより III.パスキーニによるトッカータ
14. 林そよか:幸福の硬貨 ~洋子に捧ぐ
14.林さん自らのピアノ演奏です。とても思いがこもっていて美しい演奏です。
映画『マチネの終わりに』について
福山雅治演じる天才クラシックギタリスト・蒔野聡史と石田ゆり子演じるパリ勤務のジャーナリスト・小峰洋子の出会いと別れを描いたラブストーリー。「ガリレオ」シリーズの西谷弘が監督を手がけ、情緒ある世界観を再現するため全編フィルムカメラで撮影された作品です。メインテーマ「幸福の硬貨」は、数々の映画サウンドを生み出してきた菅野祐悟によるオリジナル楽曲。俳優でありミュージシャンでもある福山が自ら演奏を担当しています。 11月1日公開。福山ファンにとっては必見でしょうね。
※映画のテーマ曲「幸福の硬貨」は林そよかさんの書きおろし曲とは違うようですね。
最後に
クラシックギターの世界はとてもマイナーで、その魅力がなかなか認知されて来なかったのですが、この機会でクラシックギターの音色を知って頂き、楽器を手に取って貰えるようになったら、とても嬉しいですね。
なお、「マチネ」とはフランス語で「昼公演」という意味らしいです。
映画『マチネの終わりに』を観て…想ったこと。
11月1日初日、待ちに待った映画を観てきました。期待しないで一緒に行った妻も閉幕後、「良かったね、サントラ盤買う?」と意外な感想にびっくりでした。
あの名曲「大聖堂」のメロディーが館内に響き渡ると、グッーと映画に惹きこまれました。
原本を読んでいたので、細かな息遣いを映画で表現するのは難しく感じましたが、ねっとりとした恋愛ものではなく、静謐な<大人な恋愛>が淡々と展開していく、久しぶりに共感できる作品に仕上がっているなあと、<ちょっとした清涼感>を感じ、席を後にしました。
音楽はほとんど100%、クラシックギター1本です。この美しい音色が終始映画を演出し、くっきりとした輪郭を映画に与え、程よい彩度とコントラストを醸し出していました。
<これほどまでにクラシックギターの響きや音色が美しいものなのか>と再認識しましたね。
こってりとした恋愛ドラマやバラエティー番組に食傷気味な方々にお勧めです。
最後に、福山が奏でたテーマ曲「幸福の硬貨」の耳コピーがありましたので紹介しておきます。素晴らしい演奏だと思います。私も楽譜が出たら弾いてみたいですね。