前回から、「楽曲の魅力」について、「時代別・地域別・作曲家別」に思うままに書き始めました。
そして今回、いろんな作曲家が目に浮かびましたが、苦慮の末決めました。
第2回目は、「アルベニス」と「グラナドス」です。
二人ともスペインを代表する作曲家です。しかし、二人はピアニストであり、クラシックギターと縁は無く、ギターのために作曲したこともありません。
それでも、クラシックギターの世界では欠くことの出来ない極めて大切な存在なのです。
ではなぜそうなのか?
しかし、本題に入る前に話しておきたいことがあります。
それは二人が生まれた『カタルーニャ州』のことです。
『カタルーニャ州』の歴史と民族性、そして芸術家達
その歴史
中世の頃スペインは、アラゴン王国(こちらが今のカタルーニャ地方を含む)とカスティーリャ王国(こちらはマドリッド、カステーリャが中心)と、別々の国が支配していました。
現在のスペインは、1479年のアラゴン王のフェルナンドとカリティーリャのイザベル女王の婚姻によって統一の道筋が出来た(イスパニア王国の樹立)のです。
その民族性
カタルーニャの人たちは総じて勤勉ですので、いわゆる「朝からワイン飲んで、シエスタ(昼寝)して、毎夜フィエスタ(お祭り)」といった楽天的なスペイン人のイメージではありません。
あのイメージは南のアンダルシア地方のものであり、カタルーニャの人たちは「あの人たちとは一緒にしないでほしい」と思っているそうです。
一般的にスペイン語と呼ばれているのは、「カスティーリャ語」といって元々スペイン中央~中央以北で話されていた言語です。
カタルーニャの言語は「カタラン語」です。カスティーリャ語よりもフランス語に近い感じです。文化的にもフランスに近い印象があります。
カタルーニャ出身の芸術家達
パブロ・ピカソ(1881-1973) ジョアン・ミロ(1893-1983)
サルバドール・ダリ(1904-1989) アントニ・ガウディ(1852-1926)など
錚錚たる人物が出現しています。
最近の独立問題
カタルーニャはスペインのGDPの2割を稼いでいる豊かな州です。その分、税金の負担が重いのですが、「その割に財政資金の配分は少ない。自分たちの稼ぎが中央や他の州にばかり使われているではないか」という不満が昔からあったことが、今回の独立問題の根底にあります。
以上のことから、二人は
ではこの予備知識を踏まえて、本題に入ります。
イサーク・アルベニスとは
イサーク・アルベニスは、スペイン近代民族主義楽派の旗手となって活躍した作曲家で、天才的なピアニストです。
1860年5月29日、カタルーニャ地方に生まれました。
1868年~1871年にマドリッド音楽院でソルフェージュとピアノを学び、その間をぬってピアノの腕を活かして各地を放浪し、12歳の時には中南米まで放浪。やがて、ライプツィヒ音楽院やブリュッセル音楽院で学びました。
その後、天才ピアニストとして世界各地を演奏して回り、23歳で妻ロシーナと結婚。結婚を機に放浪を止めたアルベニスは、マドリッド、ロンドンを経て、居をパリに移し、生涯をフランスで過ごすことになりました。1909年5月18日49歳で亡くなります。
オぺラやオーケストラ作品も残しましたが、特にピアノ曲を多く作曲し、スペイン近代民族主義楽派としての作品にアルベニスの魅力が発揮されました。、その傑作は1906年から没年の1909年までに作曲された12曲からなる組曲「イベリア」で、スペイン音楽のみならず近代ピアノ音楽の最高峰のひとつとされています。
エンリケ・グラナドスとは
グラナドスは、アルベニスと並び、スペインの国民的作曲家・ピアニストとして有名です。
アルベニスが誕生してから7年後の1867年7月27日、カタルーニャ地方に生まれました。
プホーフにピアノ、ペドレルに作曲を師事。1887年~1889年にかけてパリに留学し、帰国したのち、優れたピアニストとしても活躍しました。
民族色の強いアルベニスの音楽と比較すると、グラナドスの音楽はその民族性に加えて、ロマン的な性格が強いことが特色です。
その甘美さ、繊細さにおいて、シューマンや、ショパンの影響を大きく受けています。一方で、印象派的な傾向など、ドビュッシーからの影響もみられるようです。
グラナドスは、スペインの中でも、北方の民謡を中心的に扱っており、洗練された書法が特徴で、「スペインのグリーグ」とも呼ばれました。
1916年、第一次世界大戦の犠牲になり、英仏海峡にて行方不明となりました。(48歳)
二人の作品がクラシックギターで演奏される理由
現代クラシックギターの原型は、スペインの楽器製作者「アントニオ・デ・トーレス」が開発し、当然の帰結としてたくさんのギター曲がスペインで作られ演奏されました。
スペイン音楽には、民族音楽のリズムがその根底に息づいています。アンダルシアのフラメンコ、アラゴンのホタ、カスティリアのセギディリャなどがその代表です。
そして、クラシックギターはこれらの民族音楽をとてもうまく表現出来る楽器なのです。
したがって、スペインの血が流れる二人のピアノ作品にも、当然ながらギターからインスピレーションを得たと考えることに無理はなく、ギター曲に編曲しても違和感は無いのです。こうして、二人の曲は自然にギター曲としても愛されるようになしました。
二人の作品をクラシックギターで演奏した場合の比較
アルベニスの作品を演奏した場合
私も二人の作品をたくさん弾いてきましたが、個人的な印象では、アルベニスの作品の方がギターによく合う気がします。
福田進一氏も同じような感想を持っているようで、福田氏いわく
「アルベニスの作品は、ギター的なハーモニーの進行で出来ている部分が非常に多い。彼はアンダルシアの音楽に興味があり、それはすなわち、フラメンコのこと。フラメンコ特有のコード進行は、哀愁と情熱を増幅させる」と語っています。
グラナドスの作品を演奏した場合
一方、福田氏はグラナドスの作品について
「グラナドスは貴族的であり、もっとコスモポリタンであり、しかも外からスペインを見ているところがある。雰囲気としてはスペインの要素を持っているが、フラメンコ風の癖は音楽から割と排除されている」と説明しています。
私もグラナドスの作品について似たような印象があります。グラナドスの作品は弾きづらい音階とか和音などがあります。しかし、編曲次第では、スペインの雰囲気を味わいながら、同時にロマンチックな気分に浸れることもあります。
では最後に、二人の作品から代表的な曲を一曲ずつ、紹介します。
アンダルシア州にある都市名が曲名です。夜明けを告げる鐘が鳴り響き、いつもように朝を迎え、市場が始まります。午後になると日差しが強くなり、人の行き来も活発なります。そして、夕日が町を染め、夜になるとひっそりと静まり返る歴史ある街。そんな一日を音楽で表現しています。
演奏家:「ジョン・ウイリアムス」(クラシックギター界の大御所)
<グラナドスの『詩的ワルツ集』>
優雅な旋律と躍動感あふれるリズムが感じられる初期の傑作です。どこか懐かしく美しいメロディーが親しみを感じ、グラナドス自身が生涯にわたり好んで演奏した曲です。今回紹介する演奏の編曲は演奏家自身が行ったもので、素晴らしい編曲になっています。
演奏家:「Celil Refik Kaya」(将来を嘱望されるトルコ人若手演奏家)
最後に
今回は、同じ時代・場所に生まれ、ライバル関係にあった二人の作曲家を取り上げました。
音楽性には違いはあるものの、曲の根底にあるスペインらしさは、お互い引けを取りません。
そして、二人が居なかったら、クラシックギター界の発展は無かったと思います。それ程貴重な存在だったのです。
これからも私は、二人の曲を弾き続けますが、もう一度二人の思いをかみしめて、スペインらしさを追い求めて行きたいと思います。